「上方遊歩46景~言葉・本・名物による展覧会~」

ちょっと立て込んでいるので、簡単にしか書けないが、昨日の海洋堂の宮脇さんのレクチャーがどこで行われたか書いておこう。
非常に良く出来た展覧会であるが、そこまで話題になっていので、宣伝もかねて。

京阪電車なにわ橋駅、というわりと新しい駅がある。
大阪の方はご存知の方もいるだろうが、まだ行ったことのない人も多いだろう。

2008年、中之島線という、中之島の地下を走る線路が完成した。
天満橋駅から中之島駅までの5駅という短い区間の線路であるが、
中之島を縦断する電車がなかったので、中之島の東西をいくのには非常に便利な線路である。

なにわ橋駅はその一つで、外に出るとちょうど大阪市中央公会堂が見えるという、中之島公園に行くには最適な場所にある。

そのホームから地上へいく中間の動線のところに、京阪電車なにわ橋駅アートエリアビーワンという、主にアートを中心とした様々な催しが行われるスペースがあって、大阪大学NPO法人ダンスボックス、京阪電気鉄道の3団体で企画・運営が行われている。

2008年の開業前から実験的な様々な展覧会、ワークショップ、イベント、演劇などが行われているのだが、春と秋に鉄道をモチーフにした「鉄道芸術祭」が行われており、今回は、名編集者である、松岡正剛氏が企画をして、大阪から京都までの京阪沿線の46駅をモーチーフに、まさに、沿線を編集するという意欲的な試みが行われているのだ。

松岡正剛氏は、70年代から工作舎を立ち上げ、「遊」という伝説的な雑誌を発行していたことで知られているが、その後は編集工学の名のもとに、大著「情報の歴史」などを編纂したり、展覧会を企画したり、また自分のメソッドを伝える編集の学校を主宰したり八面六臂の活動を続けている。

最近なら、千日間、千冊の本を独自の視点で書評していく「千夜千冊」や、東京の丸善で、独自の文脈で本棚を編集した「松丸本舗」などのことを覚えている人も多いと思う。

その松岡正剛氏が、大阪と京都の京街道の豊富な歴史を秘めた、京阪沿線を遊歩し、それを編集して、様々な資料、豊富な人脈によるトークイベントなどを行っているのが「上方遊歩46景~言葉・本・名物による展覧会~」というわけなのだ。

そして、昨日は、京阪沿線に会社を構える、精巧なフィギュアで世界的にも著名になった海洋堂の社長、宮脇氏のトークイベントが行われていたというわけだ。
http://artarea-b1.jp/blog/

展示は、駅の構内のように、円柱状にした柱を沿線分立て、そこに文章と写真、本、関連名物などを置いて構成されており、さらに、束芋などのアーティストの展示なども行なわれ、重層的な見方、読み方、歩き方ができるように工夫している。

特に、文学者や身体研究者などの参加は興味深く、関西出身の作家、柴崎友香の新しいメディアを使った書き下ろしのエッセイ「水と人とが集まるところ」や、束芋近松門左衛門の『曾根崎心中』の登場人物である遊女お初に対して、心中を諌める手書きの文書「心中慰留」などは、かなり秀逸である。

これは、僕が以前から幾度か書いている、芸術祭には文学者をもっと入れるべきだ、という主張にも通じているところがあり、これらの物語は今のところ、会場内でしか読めないが、今後、ネットや電子書籍で発表されるなりして、継続的に人々を誘発するコンテンツとして幅広く公開していただきたいところである。

個人的には、以前から関心のあった、能楽師で、ロルファーでもあり、身体的観点から様々な古典を読解している安田登氏のワークショップにも関心があったが、行きそびれてしまった。

「上方遊歩46景~言葉・本・名物による展覧会~」は、現在の地方芸術祭で不足している部分について、かなり急所を突くような形で提示されているので、是非、時間のある方は足を運んで頂きたい。
12月25日までだが、関連イベントはまだまだ残っているし、イベントのない日でもいろいろ発見のある展覧会である。